大腿骨骨折のリハビリについて

1.大腿骨骨折の概要と種類
2.大腿骨骨折のリハビリに関する論文紹介
3.リハビリ手法の紹介
4.さいごに
1.大腿骨骨折の概要と種類
大腿骨骨折とは、太ももの骨である「大腿骨」が骨折する外傷で、特に高齢者に多く発生する重大な疾患です。
骨折の部位や原因によって症状や治療法が異なりますが、いずれにおいても日常生活に大きな支障をきたす可能性があり、適切な治療とトレーニングが不可欠です。
発生頻度と背景
高齢化社会の進展により、大腿骨骨折の患者数は年々増加しています。
日本国内では年間約20万件近い大腿骨近位部骨折が発生しているとされており、その約80〜90%が65歳以上の高齢者に集中しています。
特に女性に多く、骨粗鬆症(骨がもろくなる疾患)との関連が深いことが知られています。
高齢者では、転倒などの比較的軽度な外力でも骨折が生じやすくなっており、寝たきりや要介護状態へとつながるリスクが非常に高いため、医療・介護の分野でも大きな関心が寄せられています。
大腿骨骨折の種類
大腿骨骨折は、骨折部位によって大きく3つに分類されます。
① 大腿骨近位部骨折(股関節に近い部位)
最も頻度が高く、以下の2種類に分かれます:
- 頚部骨折(けいぶこっせつ):大腿骨頭と骨幹部をつなぐ「頚部」での骨折。骨への血流が遮断されやすく、人工骨頭置換術が必要になることもあります。
- 転子部骨折(てんしぶこっせつ):大腿骨頚部よりもやや下の部分(転子部)での骨折。骨癒合が見込みやすいため、金属プレートや髄内釘による固定手術が行われるのが一般的です。
この近位部骨折は「骨粗鬆症性骨折(脆弱性骨折)」の代表例であり、転倒による外傷が原因の大半を占めます。
② 大腿骨骨幹部骨折(太ももの中央付近)
スポーツや交通事故などの強い外力によって生じることが多く、比較的若年層にも見られる骨折です。
手術による固定と、その後のリハビリが必要になることがあります。
③ 大腿骨遠位部骨折(膝に近い部位)
こちらも比較的頻度は少ないですが、高齢者の転倒や交通外傷でみられます。膝関節に近いため、関節可動域の制限や痛みが残るケースもあります。
2.大腿骨骨折のリハビリに関する論文紹介
上記のように大腿骨骨折は、高齢社会において非常に頻度が高く、リハビリの重要性がある疾患の一つといえます。
実際にどのようなリハビリを行うのか?効果はどのようなものであるか? について論文をもとに解説いたします。
こちらの論文をもとに解説します。
Soukkio PK, Suikkanen SA, Kukkonen-Harjula KT, Kautiainen H, Hupli MT, Aartolahti EM, Kääriä SM, Pitkälä KH, Sipilä S. Effects of a 12-month home-based exercise program on functioning after hip fracture – Secondary analyses of an RCT. J Am Geriatr Soc. 2022 Sep;70(9):2561-2570.
大腿骨骨折者における在宅リハビリの効果

対象:大腿骨頸部骨折、大腿骨転子部骨折、大腿骨転子下骨折を受傷した者 121名(平均年齢:80代前後)
骨折からの日数は平均して30日程度
介入:1回あたり60分のリハビリを週2回在宅で受け、一年間継続した。
比較群:ケアは受けていない
結果:
洗濯、食料品の買い物、金銭管理、公共交通機関の利用などの手段的日常生活活動の向上を認めた。
SPPB (Short Physical Performance Battery)と言われる立位バランス、歩行速度、下肢筋力、握力(全身筋力の指標)の向上を認めた。
リハビリを実施していない比較群は、3-6ヵ月から日常生活活動、SPPB、握力が低下していく傾向であった。
3.この論文内のリハビリ手法の紹介

1年間在宅でのリハビリを継続することにより、比較群(介入なし)と比べて、立位バランスや歩行速度、下肢筋力など多くの項目で改善を認めました。
大腿骨骨折後の患者さんは、運動の恐怖感や不安感、運動機能の低下などが相まって退院後などに十分な運動が行えないこともあると思います。
そこで、本論文で紹介されているリハビリの内容(1回60分)について共有いたします。
大腿骨骨折後に在宅での生活や体の機能についてお悩みの方は是非参考にしてみてください。
①ウォーミングアップ
まずは、5-10分のウォーミングアップを行っています。
内容は、ウォーキングまたはエアロバイクを使用した自転車漕ぎの運動です。
速度などの指定はありませんが、期間を通して徐々に強度を高めていく必要性があります。
②メインの運動
メインの運動は30-40分のオタゴ運動プログラムを参考に行っています。
以前に内容や効果について記載した記事がありますのでこちらをご覧ください。
筋力トレーニングの内容は、座った姿勢での膝伸ばし、立位姿勢での膝曲げ、股関節を開く運動、踵上げ、つま先立ちなどです。
ただ上記を行うだけでなく、足首に重りを付けたり、セラバンド(抵抗感のあるゴム製のバンド)を使用したり、反復する回数やセット数を徐々に伸ばしていく必要があります。
運動には各個人に見合ったきつさ(強度)が重要であり、自覚的な運動強度では、”ややきつい~かなりきつい”の間で調整していく必要があり、自身にとって”楽である”といった運動強度である場合、負荷や回数が足りてない可能性があります。
③バランストレーニング
バランストレーニングもオタゴ運動プログラムに準じています。
具体的には、片足立ち、継ぎ足姿勢(タンデム)、数字の8の字歩き、横歩き、後ろ歩き、立位から座位のトレーニング、膝の屈伸、かかと歩き、つま先歩きで構成されており、個人に応じて難易度を上げていきます。
④柔軟(ストレッチ)、ファンクショナルトレーニング、カウンセリング
最後に5-10分の柔軟、5-10分ファンクショナルトレーニング(この論文では、屋外歩行や段差昇降、日常生活に適した運動)、個人に応じたカウンセリングとなっています。
どの部分の柔軟を行うかは各個人によると思いますが、大腿直筋やハムストリングス、腸腰筋などの柔軟が一般的には行われたものと考えられます。
また、屋外歩行や段差昇降など生活機能に即した運動も重要である可能性があります。
4.さいごに
今回は大腿骨骨折に関する在宅リハビリにおいて効果のあるリハビリ内容について紹介いたしました。
筋力トレーニングやバランストレーニング、加えて各個人に応じたファンクショナルトレーニングの重要性が示唆されています。
運動強度に関するリハビリプロトコルが興味深く、自身にとって”ややきつい~かなりきつい”強度での運動が効果を生みやすい可能性がありますね。
大腿骨骨折後のリハビリにお悩みの方に参考になれば幸いです。
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保有資格:理学療法士、修士(理学療法学)、認定理学療法士(運動器)
住環境コーディネーター2級
略歴:理学療法士免許取得後、大学病院に勤務し、整形外科、神経疾患、がんなど様々な疾患の理学療法に従事する。その後、大手自費リハビリ施設にて勤務し、医学的根拠(エビデンス)の基礎を学び、店舗・訪問リハビリにて利用者様に尽力。その経験を活かし、東京を主に活動する自費訪問リハビリサービスのRehab Tokyoを設立。


