変形性膝関節症における膝の痛みの正体とは?

◆変形性膝関節症における膝の痛みの正体とは?
変形性膝関節症(knee osteoarthritis, 以下膝OA)は、膝関節の軟骨や骨、滑膜、靱帯などの構造的変化によって進行する慢性疾患であり、
高齢者を中心に多く見られます。
膝関節の変形や腫脹など伴うこともありますが、そのなかでも最も患者さんの苦痛となるのが「膝の痛み」です。
膝の痛みはの多くは、荷重(体重がかかる)姿勢で生じ、立ち上がりや段差、歩行時にみられることが多いとされています。
ではこの膝の痛みは、一体どこで、なぜ起こるのでしょうか?
◆痛みを感じるのは「軟骨」ではない?
膝関節の関節軟骨そのものには痛覚受容器(痛みを感じる受容体)は存在しないことがわかっています。
つまり、軟骨がすり減っても、それ自体が直接痛みを生むわけではないと考えられています。
それでは痛みの原因はどこにあると考えられているのでしょうか?
現在の研究では、膝関節周囲で痛覚受容器が豊富に存在する部位として、以下の組織が注目されています:
| 滑膜(synovium) | 炎症によりサイトカインやプロスタグランジンが放出され、痛みを誘発 |
| 関節包・靱帯 | 緊張や変性、微小損傷によりメカニカルストレスが加わる |
| 骨膜・骨内(subchondral bone) | 骨髄浮腫や微細骨折が痛みの原因となることがある |
| 半月板(特に外周部) | 神経が存在し、変性や断裂により疼痛が生じる可能性あり |
| 脂肪体(特に膝蓋下脂肪体) | 感覚神経が豊富で、炎症や圧迫により痛みが出やすい |
Schaible HG. Mechanisms of chronic pain in osteoarthritis. Curr Rheumatol Rep. 2012 Dec;14(6):549-56. doi: 10.1007/s11926-012-0279-x.
このように、膝関節の周辺には痛みを感じる組織がいくつか存在し、関節の膜である滑膜やそれらを関節外構成体である膝蓋下脂肪体(膝のお皿の下にある脂肪)などからも疼痛を感じるといわれています。
加えて、変形性膝関節症は慢性的に痛みが出現する疾患でもあもあるため、感作(痛みを感じやすくなる)が生じやすく、軽度な痛みでも強い痛みに感じてしまうことがあります。
◆姿勢や荷重のかけ方が痛みに影響するのか?
変形性膝関節症における痛みは、炎症や神経学的要因に加え、”関節にかかる力学的ストレス(バイオメカニクス)”と密接に関係しています。
特に、関節内の荷重バランスの乱れや動的な膝関節の位置関係(アライメント)の異常は、関節構成要素に対する刺激・損傷を引き起こし、痛覚受容器を賦活させる要因となります。
1. 荷重の偏り:膝内反(O脚)と内側関節への過剰負担
日本国内における変形性膝関節症では、特に内側型(medial compartment OA)といわれるO脚変形が圧倒的に多く、
内側にかかる力が強い場合には以下のような機序で痛みが強まると考えられています。
- 内側半月板や軟骨への圧迫により、クッション機能が損なわれる
- 内側の滑膜や関節包の伸張・炎症が持続し、痛覚刺激となる
- 関節下骨(subchondral bone)への応力集中が微細骨折や骨髄浮腫を引き起こす(MRIで検出可能)
さらに、歩行時のピーク膝関節内反モーメント(体の重心と床からの反力、関節位置で割り出される膝関節を内側に曲げる力)が高いと、疼痛や構造的進行のリスクが高いことが研究で示されています。
Miyazaki T, Wada M, Kawahara H, Sato M, Baba H, Shimada S. Dynamic load at baseline can predict radiographic disease progression in medial compartment knee osteoarthritis. Ann Rheum Dis. 2002 Jul;61(7):617-22.
2. 筋力低下と関節の不安定性
膝関節周囲の筋力、特に大腿四頭筋や殿筋群の低下は、関節の動的安定性を低下させ、痛みの増悪因子となります。


- 大腿四頭筋の弱化:膝の伸展動作が不安定になり、立ち上がりや階段昇降時に膝関節に力学的ストレスが集中する
- 殿筋群の弱化(中殿筋など):骨盤の安定性が低下し、大腿(ふともも)のコントロールが不安定になるため膝関節の制御が難しくなる。
3. 動いている際の膝関節の位置の異常(動的アライメント異常)
普段の立位姿勢が正常であっても、動いているときの膝関節の位置関係の異常が痛みの原因になることもあります。
- 足部、膝関節、股関節の協調運動の異常(各関節が滑らかに関節が動いていない)
- 足部の土踏まず(内側アーチ)低下による、下腿(膝下)の回旋の異常
- 痛みなどによる、大腿四頭筋(ふとももの前の筋肉)の収縮が遅れる
4. 歩行パターンの変化
痛みを避けるために歩行のパターン変化がみられることもあります。
実際に痛みをかばうために効果的な場合もあると思いますので、参考程度にしてください。
- 膝を十分に伸展しないまま歩行(flexed knee gait)
- 膝に痛みがある側の歩幅の短縮と片脚で支える時間の短縮
- 体幹を側方に傾斜させて荷重を避ける
◆痛みは「構造の損傷」のみでの説明はつかないことが多い
近年の研究では、画像上の変形の程度と痛みの強さが必ずしも一致しないことが報告されています。
つまり、痛みは構造的変化だけでなく、炎症・神経感作・心理的要因(恐怖回避、抑うつ)などに加えて、姿勢や歩行パターンなどのバイオメカニクス的な要素も加わり生じると考えられています。
今回は膝の痛みの正体やそこに力学的要因がどのように関与するかについて解説しました。
お悩みの方に参考になれば幸いです。
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保有資格:理学療法士、修士(理学療法学)、認定理学療法士(運動器)
住環境コーディネーター2級
略歴:理学療法士免許取得後、大学病院に勤務し、整形外科、神経疾患、がんなど様々な疾患の理学療法に従事する。その後、大手自費リハビリ施設にて勤務し、医学的根拠(エビデンス)の基礎を学び、店舗・訪問リハビリにて利用者様に尽力。その経験を活かし、東京を主に活動する自費訪問リハビリサービスのRehab Tokyoを設立。


