1.慢性期でも歩行機能は進化する ― 神経可塑性の土台

2.脳卒中におけるリハビリのエビデンス

3.体幹トレーニングが歩行を支える理由

4.体幹機能の強化が歩行へつながるメカニズム

5.継続期間と効果のイメージ

6.安全にトレーニングを続けるためのポイント

1. 慢性期でも歩行機能は進化する ― 神経可塑性の土台

脳卒中の後遺症による生活の制限は、発症後数ヶ月が経過してもなお続くことがあります。

特に慢性期に入った脳卒中(脳出血、脳梗塞)患者さんにとって、「これ以上の改善は望めないのではないか」と感じてしまうこともあるかもしれません。
しかし近年の研究では、慢性期であっても適切なトレーニングによって機能回復の可能性が十分にあることが示されています。

発症6か月以降でも、脳の神経回路は再構築できる神経可塑性(neuroplasticity)が残されています。

これは筋力向上だけでなく、歩行パターンや歩行の速度、バランス能力の向上にとっても重要です。

たとえば、Mehrholzらのメタアナリシスでは、慢性期脳卒中患者に対する歩行練習が歩行速度や持久力の向上に効果的であることが示されています
(Mehrholz et al., 2017)。

さらに、Tudor-Lockeらによると、日常的に3,000歩以上歩くことが神経回復に有効であるという報告もあり(Tudor-Locke et al., 2011)、
訪問リハビリなどを通じて歩行習慣を確立することやそのための能力向上を図ることが重要だといえます。

2.脳卒中患者におけるリハビリのエビデンスについて

慢性期(発症後6か月以上)の脳卒中患者さんを対象にした研究は現在でも数多く発表されています。
InformMe: Living Guidelines for Stroke(オーストラリア)、AHA/ASAの脳卒中リハビリガイドラインを元に解説していきます。

歩行や移動能力に着目した下肢のリハビリでは、下記に有効性が示されていました。

①反復タスク練習(ステップ動作や歩行動作、段差昇降動作などのタスクを繰り返す)
②サーキットエクササイズ(筋力、バランス、歩行を組み合わせた動作練習)
③トレッドミル歩行(ランニングマシーン様の器具を用いて歩行練習)
④地上歩行(平地にて歩行練習)
⑤電気刺激を用いた補助的なリハビリ 

脳卒中のリハビリにおいては下記に記している体幹のトレーニングも非常に重要になります。

3. 体幹トレーニングが歩行を支える理由

歩行のみならず体幹を基盤としたトレーニングも欠かせません。

歩行能力の基盤には、体幹の安定性があります。

慢性期の脳卒中患者では、体幹筋群(特に腹斜筋や多裂筋など)の活動が低下しやすく、これが立位保持や方向転換、歩行時の安定性に影響します。

・Karthikbabuらの研究では、**体幹に対する理学療法的介入(例:座位での重心移動練習や骨盤運動)**によって、バランス能力が有意に改善されたことが報告されています(Karthikbabu et al., 2012)。

・体幹トレーニングは歩行能力との相関が強く、Cabanas-Valdésらのシステマティックレビューでは、体幹トレーニング後の歩行速度とバランススコアの改善が認められました(Cabanas-Valdés et al., 2016)。

体幹安定性エクササイズを理学療法士指導下で実施すると、体幹機能(Trunk Impairment Scale)と動的バランスが改善し、歩行速度が0.27 m/s向上したという報告があります 。
(Haruyama K et al., 2017)

・自宅で簡単にできる体幹強化プログラム(週4回、8週間)は、体幹機能(TIS)とTUG(Timed Up‑and‑Go)を用いた評価で、通常の理学療法以上の改善効果が示されました 。

4. 体幹機能の強化が歩行へつながるメカニズム

体幹機能が向上すると、、

  • 姿勢制御(姿勢のコントロール)が改善し、歩行中によりスムーズな重心移動が可能。
  • 歩幅と歩行速度が自然と増加し、日常生活での動作が安定します。
  • 筋力と神経制御の両面で可塑性が促進され、歩行回路づくりの効率がアップ 

体の中枢部である体幹機能の向上は、スムーズな体の動きに不可欠です。
体幹筋群の神経支配は、両側の大脳を介して行われており、1側の脳の損傷においても両側性に運動麻痺が生じることがわかっています。
施術では、歩行のみならず生活動作における姿勢の保持や、立ち上がり、寝返りなどにおいても
体幹を効率的に使えるようにトレーニングを行っていきます。

引用文献
Aycicek HB, Karakayali G, Gurcay E. Influence of core stabilization exercise on physical function and muscle thickness in patients with chronic stroke: A randomized controlled clinical trial. Scott Med J. 2024 Nov;69(4):121-127.
Cabanas-Valdés R, Bagur-Calafat C, Girabent-Farrés M, Caballero-Gómez FM, du Port de Pontcharra-Serra H, German-Romero A, Urrútia G. Long-term follow-up of a randomized controlled trial on additional core stability exercises training for improving dynamic sitting balance and trunk control in stroke patients. Clin Rehabil. 2017 Nov;31(11):1492-1499. 
Gamble K, Chiu A, Peiris C. Core Stability Exercises in Addition to Usual Care Physiotherapy Improve Stability and Balance After Stroke: A Systematic Review and Meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2021 Apr;102(4):762-775. 
Haruyama K, Kawakami M, Otsuka T. Effect of Core Stability Training on Trunk Function, Standing Balance, and Mobility in Stroke Patients. Neurorehabil Neural Repair. 2017 Mar;31(3):240-249. 

5.継続期間と効果のイメージ

慢性期の脳卒中者に対して、体幹トレーニング期間と効果について下記にまとめています。

  • 8~12週間継続することで効果が期待できる
  • 12ヶ月フォローの研究でも、動的バランスと歩行の改善効果は持続可能性が高い。
  • 体幹トレーニングと歩行タスク練習の組み合わせが、神経可塑性と運動学習の相乗効果を生む可能性が高い
  • 脳卒中における歩行練習に体幹トレーニングを加えることで、体幹コントロール、バランス、歩行速度改善が期待できる

6.安全にトレーニングを続けるためのポイント

  • 主治医の先生の判断を必ず仰ぐ:特に心血管疾患・骨折リスクなどがある場合、開始前に確認必須。
  • 無理のない強度から開始:実施前後に血圧や脈拍などを測り、過度な疲労・息切れ・めまいが出たら速やかに中断する。
  • 記録と振り返り:セラピストが毎回のトレーニングを記録し、段階的にレベルアップ。
  • 介助者との連携:必要に応じて、ご家族・介助者に補助や見守りを依頼。

最後に

この記事のご覧の方の中には、
「どのようなトレーニングが有効なのかわからない」、「もっと〇〇が改善されれば・・・」、「最近は機能の向上が少なくなってきた」
など、お悩みが沢山あると思います。

そのような方々に対して少しでもお力になれればと思っています。
私たちは些細なお悩みでも出来る限りお答えさせ頂きます。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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